骨伝導とは ~音や声が伝わるしくみ~
骨の振動を聴く ~音が伝わる二つの経路~
普段の生活で会話をしたり、音楽を聴いたりする時、ごく当たり前のように「耳で聴いている」と思い込んでいませんか?
たとえば、海で暮らすクジラの耳は、海水や水圧に影響されない体の内部にあり、外からの音は直接聴こえない構造となっています。
また、かの偉大な作曲家ベートーベンは、晩年に聴覚障害となった後、ある方法でピアノの音を聴きながら作曲を続けたと言われています。
クジラやベートーベンは、どのように音を聴いたのでしょうか。
クジラは下顎の骨で水中を伝わる音の振動をとらえて耳に伝えています。
ベートーベンは口にタクトをくわえてピアノに押しつけ、ピアノの音の振動を歯から頭蓋骨を経て、聴覚器官まで伝えることで音を聴きました。
この例が示すように、音や声には一般的に
(1) 「耳で聴いている」 空気の振動で伝えられた音=「気導音」
(2) 「骨の振動を聴く」 骨の振動で伝えられた音=「骨導音」
という、2つの音の伝達経路があるのです。
つまり、音や声は「空気の振動」と「骨や皮膚組織の振動」の2つの経路で伝わっているのです。
骨伝導で音を聴く/ 骨伝導スピーカー
骨伝導で音を聴くしくみ ~内耳に直接響く音~
私たちが聴く音、 「振動」の伝達経路は、(1) 空気を伝わる気導音 (2) 骨を伝わる骨導音の2つがあると先に述べましたが、最終的に振動を音としてとらえるのは、内耳にある聴覚神経です。
そこで、聴覚神経まで音、「振動」が伝わるしくみを簡単にご説明しましょう。
まずは、一般的に「耳で聴いている」と実感できる空気を伝わる「気導音」の場合です。人の話し声、テレビやラジオからの音は、まわりの空気を振動させ、その振動が耳介で集められて耳の穴=外耳道に入り、鼓膜を振動させます。
この振動が中耳で増幅され、内耳のうずまき管内部のリンパ液中に浮かぶ聴覚神経の先端部が揺れ動かすことで、私たちは振動を音として認識しています。
それに対して「音の振動を直接伝える」といえる「骨導音」の場合は、外耳や中耳を経由することなく、内耳のうずまき管に直接音の振動を伝え、リンパ液中に浮かぶ聴覚神経を揺れ動かすことで、音として聴こえるのです。自分の耳を塞いでも、自分が発した声が聞こえるのは、この「骨導音」があるからです。
また、その時に聞こえる声が、いつも聴いている自分の声と違うと感じるのは、「骨導音」が主に聴こえ、「気導音」が遮られているためです。いつも聴いている自分の声は、「気導音」と「骨導音」がミックスされているので、このように違った声に聴こえてしまうのです。
骨伝導で音を聴くメリット ~耳を使わなくても、音が聴こえます~
「骨伝導で音を聴く」ことは、耳から伝わる空気の振動を使わないため、さまざまなメリットがあります。
最大のメリットは、両耳が完全にオープンになることです。骨伝導スピーカーを装着したまま、周囲の音を同時に聴くことができるので、そのまま自然に会話ができます。騒音の激しい場所では逆に耳栓を併用することにより、聴覚を保護するとともに、周囲の騒音に邪魔されない明瞭な音声を聴けます。
また、鼓膜の機能が衰え耳が不自由になった方ても音が聞こえるので、補聴器として使うこともできます。さらには、水中や特殊な環境など、さまざまな利用シーンとニーズに応えることができます。
骨伝導で音を拾う / 骨伝導マイクロホン
骨伝導で音を拾うしくみ ~声は声帯の振動~
私たちが発する声は、声帯を振動させることで生まれます。その声=振動がまわりの空気を介して他人の耳へと伝わる「気導音」が、他人が聴いている私たちの声なのです。
一方、声帯の振動は自分自身の頭蓋骨にも伝わっており、「骨導音」として自分の聴覚器官に届いています。
例えば手で口を塞いだり耳を塞いでも、「骨導音」により自分の声がある程度聴こえてきます。しかし、その時に聴こえる自分の声が、いつもの声と違って聴こえるのは、「骨導音」だけを聴き、「気導音」が遮られているためです。
反対に、テープレコーダーに録音した自分の声が違った声に聴こえるのは、「気導音」のみが録音され、「骨導音」はまったく録音されないからです。
「骨伝導」で声をひろうことは、骨に伝わってくる声帯の振動を高感度な振動センサー素子で集め、電気的な音声信号に変換することで可能になります。
骨伝導で音を拾うメリット ~環境に左右されない装置~
「骨伝導で音をひろう」とは、頭蓋骨に伝わる声帯の振動を直接音声信号に変換することを意味します。
よって、耐騒音性に優れている(外部の騒音や雑音に影響されにくい)、装着位置の自由度が高い(口の近くにマイクがなくてもよい)、防水化が容易である(屋外や水中でも使用できる)などのメリットがあり、さまざまな利用シーンに対応することができます。